こんにちは、保育ICT推進協会の三好です。
今回のテーマは、保育現場や自治体でのICT導入と活用について、そしてそれを支える「ワーキンググループ」という取り組み方をご提案する内容です。
私はこれまで、社会福祉法人や自治体のICT化プロジェクトに携わり、多くの現場でICT化をすすめたり支援してきました。その中で感じたのは、ICTを導入するだけではなく、どのように「現場で活かすか」が大きな鍵になるということです。導入したシステムを有効活用するためには、現場の声を反映した運用ルールや検討の場が欠かせません。
ICT化に取り組む中で、「現場ごとにバラバラの運用をなんとかしたい」「導入したものの、活用しきれていない」といった声をよく耳にします。この記事では、そうした課題に対して解決の糸口となる「ワーキンググループ」の具体的な活用法やポイントをご紹介します。
ICT化を進めたいけれど、何から手を付けて良いか迷っている方や、導入済みのシステムをもっと現場で活かしたいと考えている方にとって、少しでも参考になれば嬉しいです。
この記事の内容はYouTubeでも解説しています。
ICT化の現状と課題
保育現場でもICT化がすすんでいます。多くの自治体や施設でその必要性が認識され、導入率も確実に上昇しています。現場で工夫しながら活用を進めている様子も見受けられます。しかし、導入そのものは進んでいても、「活用」という段階において、多くの課題が浮かび上がってきています。
複数施設を運営する社会福祉法人や自治の悩み
例えば、複数施設を運営する社会福祉法人や自治体では、共通ルールの作成と個別施設の独自性の尊重という相反する二つのの問題がよく見られます。
- 共通ルールの利点と課題 共通ルールを採用すれば、組織全体で統一感を持ち、運用効率が向上する可能性があります。しかし、その一方で、施設ごとのニーズや現場の声を反映しきれないという課題が生じます。
- 独自ルールの利点と課題 逆に、各施設で独自ルールを設定する場合、現場ごとの柔軟な対応が可能となりますが、それに伴い検討の手間やコストが増大し、統一的な運用が難しくなる傾向があります。
一法人一施設などの単独施設の場合の悩み
単独施設でICTを導入する場合も、独自の課題が浮き彫りになることがあります。複数施設を運営する場合と比べてシンプルに見えるかもしれませんが、特有の問題があります。
- 使い方が明確に定まっておらずICTの活用が職員ごとにばらばら
- その場しのぎの使い方の蓄積で、負担軽減につながらない
- 使い方をTOPが決めるので現場の声が反映されていない
- 運用方法でうまくいっていないところがあるんだけど、それに慣れてしまっているので見直せない
単独施設の場合も、ICT導入を成功させるためには「全員が共通認識を持つこと」「継続的に運用を見直すこと」が重要です。小規模な組織であっても、現場の声を大切にしながら工夫を重ねることで、ICT化の効果を最大限に引き出すことができます。
ICT活用のサイクルと現場での課題
ICTを活用するためには、導入するだけでなく、以下のようなサイクルを回すことが重要です。
- 活用方法の検討: ICTをどのように使うべきかを現場ごとに検討。
- 実際に使う: 検討したルールを基に、現場で実際に活用。
- 結果の振り返り: 良かった点、改善点、よく分からなかった点を振り返る。
- 改善点の導入: 結果を基に運用ルールを改善。
このサイクルを通じて、現場に最適なICTの活用方法を模索していく必要があります。
しかし、この“検討”というプロセスが、多くの現場で大きなハードルとなっているのが実情です。
現場が抱える具体的な課題
厚生労働省が実施した研究調査では、ICT活用における現場の課題が明らかにされています。
- 人的余裕の不足: 検討に必要な人員や時間が足りない。
- 施設長の苦手意識: ICTに対する知識や経験の不足により、意思決定や検討が進まない。
- 検討継続の困難さ: 一度導入しても、改善や見直しを行う余裕がない。
これらの課題により、ICTの導入は進んでも、十分に活用されずに形骸化してしまうケースが散見されます。
ICT化の目的を再確認
ICT化を進める目的は、保育士や職員の業務負担を軽減し、より質の高い保育を提供することにあります。しかし、現場での声を聞くと、ルールが明確でないことや共通運用がなされていないことが大きな障壁となっていると感じることが多いです。
結果として、せっかく導入したICTが現場で活用されず、業務負担軽減の効果を十分に発揮できない状況に陥っています。
そのため、各施設の独自性と共通ルールのバランスを取りながら、組織全体で検討と改善を継続していくことが重要です。
ワーキンググループの役割と意義
ICT化を成功させるには、技術を導入するだけでなく、組織として一緒に考える場を作ることが大事です。そのためにおすすめなのが「ワーキンググループ」です。ワーキンググループは、ICTをどう活用していくかを話し合う小さなチームで、現場の声を反映しながら課題を解決していく役割を果たします。
ワーキンググループの役割
ワーキンググループは、以下のような役割を果たします。
- ルール作り
- 各施設が使いやすいルールをみんなで話し合って決めます。
- 全体としての統一感を持ちつつ、現場ごとの工夫も取り入れられるのがポイントです。
- 現場の意見を集める
- ICTを使った結果どうだったのか、良かったところや課題を現場から集めます。
- 改善を進める
- 集めた意見をもとに、次にどんな工夫ができるかを考えていきます。
- 継続的なサポート
- ICTを活用していく中で出てくる新しい課題にも対応できる仕組みを整えます。
ワーキンググループの意義
このワーキンググループがあることで、次のような良いことがあります。
- 現場の声を大切にできる ICT化を成功させるには、現場のアイデアや課題感がとても大事です。ワーキンググループがそれをしっかり受け止める役割を果たします。
- 効率的に話し合える 少人数で集まるので、話がまとまりやすく、決定までのスピードが上がります。
- 現場と組織の架け橋になる 現場の状況と組織全体の方針をうまくつなげる役割も果たします。
ワーキンググループは、「どうしたらもっと良くなるか」を考えて実行していく頼れるチームです。この体制が整うと、ICTを現場で使いやすくする体制となっていきます。
園ごとに検討すべき事項
ICT化を進める際、すべてを共通ルールで統一するのは効率的ですが、それでは現場の実情に合わないこともあります。保育園ごとに違う事情をきちんと考慮し、独自の検討が必要な部分を見極めることが大切です。それが結果的に、ICTの効果を最大限に引き出すことにつながります。
1. 園ごとの運営スタイルや事情を考慮する
保育園には規模や地域性、保護者との関わり方など、さまざまな特徴があります。大規模な園と小規模な園では、必要とされるシステムや運用方法が異なるのは当然です。たとえば、小規模園では職員同士の連携が密であることを前提にシンプルな運用を選ぶ一方、大規模園では一括管理が可能な方法を優先するといった具合です。
2. 業務内容の違いを考える
各園の業務の種類や負担には違いがあります。
どの業務にICTを活用するかは、園ごとに課題が異なるため、一律に決めるのではなく、個別に検討する必要があります。
3. 導入コストと予算のバランスを取る
ICT化には初期費用がかかりますが、その投資規模は園によって大きく異なります。小規模園では低コストで使いやすいシステムが向いていることもあれば、大規模園では機能性を重視する場合もあります。各園の予算や運営方針に合った選択が重要です。
4. 職員のスキルとサポート体制を確認する
ICTを活用するには、現場で働く職員のスキルも重要です。
「パソコンは少し苦手…」という職員が多い園では、導入後のフォローや研修が欠かせません。また、職員間のサポート体制を整えることもポイントです。スキルに差があっても、お互いに教え合える環境があれば、ICTの活用がスムーズに進むでしょう。
5. 共通ルールとのバランスを考える
すべてを各園に任せると、検討や管理の負担が大きくなります。一方で、すべてを共通ルールで縛ると、現場の実情に合わず不満が出ることも。
そこで、「共通ルールを基盤にしながら、各園が独自に調整できる部分を残す」という形が理想的です。たとえば、共通のシステムを導入したうえで、各園がその使い方を工夫して調整するなど、柔軟性を持たせることが大切です。
園ごとの独自性を大切にしながら、共通ルールと組み合わせて検討することで、ICT化の効果がより現場にフィットします。次のセクションでは、こうした運営においてよく起こりがちな課題とその解決方法について解説します。
ワーキンググループ運営で起こりがちな課題
ワーキンググループはICT化を進めるうえで有効な取り組みですが、運営していく中で悩ましい課題が出てくることもあります。ただ、こうした課題はどれも工夫次第で乗り越えられるものです。ここでは、よくある課題とその解決策をお伝えします。
1. 現場にうまく伝わらない
課題
「ワーキンググループで決まったルールが現場に伝わっていない」「そんな話聞いてないよ」といった声を聞くことがあります。せっかくの話し合いが現場で活かされなければ、もったいないですよね。
解決策
- わかりやすい資料を用意する:マニュアルや手順書を作って現場に共有すると、ルールが伝わりやすくなります。
- 顔を合わせて説明する機会を設ける:説明会やミーティングで直接話をすることで、現場の疑問もその場で解消できます。
2. 決まったことが守られない
課題
「グループで話し合ったルールが、他の会議で覆されてしまった」「現場で実践されない」といったことがあると、検討したメンバーの労力が報われず無駄になるだけでなく検討をつづけていくことができなくなります。
解決策
- トップの後押しを得る:施設長や管理者がワーキンググループの決定をしっかり支持してくれるよう、あらかじめ話をしておくと安心です。
- 調整を丁寧に:必要があれば、他の会議体や現場とも事前に意見交換をしておくことで、スムーズに進みます。
3. 忙しくて集まれない
課題
保育現場は忙しい日々が続きます。そのため、グループの会合がなかなか開けず、検討が進まないことも。
解決策
- あらかじめ日程を決めておく:月1回や数か月ごとなど、定例会の日程を事前にスケジュールに組み込むと負担が軽減されます。
- オンラインでのミーティングを活用:移動時間が不要になるので、参加しやすくなりますよ。
4. メンバー構成が偏ってしまう
課題
ICTに詳しい人だけが集まると、現場の実情に合わないルールになったり、意見が一方通行になったりすることがあります。
解決策
- さまざまな立場の人をメンバーに:園長、保育士、若手職員、ベテラン職員など、多様な意見が出るような構成にするとよいです。
- ICTスキルだけにこだわらない:現場の状況をよく知る人や意見をまとめる力がある人を選ぶのがポイントです。
5. 初めてのルール決定にプレッシャーがかかる
課題
「完璧なルールや活用方法を考えなきゃ」という思いが強すぎると、議論がまとまらなくなったり、初回の成果が思ったほど出なかった場合にがっかりしてしまうことがあります。
解決策
- 試行錯誤を大切に:「最初はお試し。改善しながら進めていこう」という姿勢で取り組むと、気持ちが楽になりますしその方がうまくいったりするものです。
- 小さな成功を重ねる:まずは一部の施設や業務に絞ってスタートし、成果を確認しながら進めていくのがおすすめです。
6. 他の施設や部署との比較で悩む
課題
「他の施設はうまくいっているのに、うちは…」と感じてしまうことがあると、やる気が低下してしまうことがあります。
解決策
- 前向きな比較を心がける:他施設の事例は「私たちもこんなことができるかも」というヒントとして捉えるとよいです。
- 後発の施設にはサポートを:先行導入した施設のメンバーがアドバイザーとして加わると、後発組も安心して進められます。
ワーキンググループを運営する中で、このような課題に直面することは珍しくありません。ただ、どれも丁寧に対応していけば、きっと乗り越えられるものばかりです。
ワーキンググループが機能しないケース
ワーキンググループは、ICT化を推進する上で非常に効果的な手法ですが、どんな場合にも万能というわけではありません。条件によっては、ワーキンググループが思うように機能しないケースもあります。ここでは、どのような状況でその課題が生じるのかを解説し、必要な対応策についても触れていきます。
1. 複数の法人が関わる場合
課題
ワーキンググループが1つの法人や組織の中で運営される場合は効果を発揮しやすいですが、複数の法人や自治体が関わる場合(地域の園長会など)、決定権が分散してしまうことがあります。それぞれの事情が異なるため、統一した運用ルールを作るのが難しくなります。
解決策
こうした場合は、ワーキンググループではなく、情報共有を目的とした勉強会や意見交換会の形式をとるのがおすすめです。全員で共通ルールを決めるのではなく、それぞれが参考にできる事例を共有する場にすることで、柔軟な対応が可能になります。
2. 導入ペースに大きな差がある場合
課題
ICTの導入が早い園と遅い園が混在している場合、進捗状況の差が問題になることがあります。すでに導入が進んでいる園にとっては遅い園に合わせるのがストレスになり、逆に遅い園は早い園についていけないと感じることがあります。
解決策
ワーキンググループに進行状況の異なる園を混ぜる場合、先行導入園をアドバイザー役として位置づけると効果的です。また、遅れている園は無理にペースを合わせず、それぞれの状況に応じた段階的な取り組みを進めることが大切です。
3. 導入しているシステムが異なる場合
課題
1つの法人内で複数のシステムを使っている場合、それぞれのシステムに対応した運用ルールを作る必要があり、ワーキンググループが十分に機能しないことがあります。「このシステムでは使える機能が、別のシステムでは対応していない」といった問題が生じることも。
解決策
可能であれば、法人内で使用するシステムを統一するのが理想です。どうしても統一が難しい場合は、システムごとに別々の運用方針を検討し、ワーキンググループの規模を縮小して効率的に議論できる体制を整えましょう。
4. 対象となる施設が多すぎる場合
課題
対象となる施設が多いと、意見を集約するのに時間がかかりすぎて、ワーキンググループがスムーズに機能しないことがあります。特に10施設以上になる場合、グループが大きくなりすぎて議論が散漫になることも。
解決策
この場合は、地域や施設の種類ごとに小さなグループを作り、それぞれのグループで検討を進めた後、代表者が集まってまとめる形式にするのが効果的です。小規模なグループに分けることで、意見が出しやすくなり、効率的な運営が可能になります。
5. ワーキンググループが必要以上に複雑化する場合
課題
決定事項が現場で守られなかったり、検討内容が別の会議体で否定されることが続くと、グループの意義が失われてしまいます。また、形式ばかりが重視され、現場の実情に即した議論ができなくなることも。
解決策
ワーキンググループは「現場で実践しやすいルールを作る」ことを目的にし、完璧な結論を求めすぎないことが大切です。また、トップや施設長がグループの決定を尊重し、現場への周知を徹底する体制を整えましょう。
ワーキンググループがすべてのケースに適しているわけではありませんが、条件に合わせて柔軟に運用すれば、ICT化を支える強力な仕組みとなります。次のセクションでは、こうしたワーキンググループの成果をより確実にするためのまとめをお届けします。
まとめ
ICT化を推進するためには、導入だけでなく、その後の運用を支える体制が欠かせません。その中で「ワーキンググループ」は、現場の声を吸い上げつつ、組織として共通ルールを策定するための有効な方法です。
ワーキンググループは、以下のようなサイクルを繰り返すことで、ICT化を成功に導きます。
- 現場の意見を集め、ルールを検討する
- 検討したルールを実践し、現場のフィードバックを収集する
- ルールを改善し、さらに効果的な活用方法を模索する
このように、試行錯誤を重ねながら少しずつルールや運用をブラッシュアップしていくことが重要です。また、ワーキンググループでの決定事項を「組織としての暫定的な決定」と位置づけ、現場で即座に実践できる仕組みを整えることがポイントとなります。
ワーキンググループを活用する際のポイント
- メンバー構成は多様性を持たせ、現場の状況を代表する人を選ぶ
- 試行錯誤を前提とし、小さな成功を積み重ねる姿勢を大切にする
- トップや施設長の後押しを得て、グループの決定事項が現場で尊重されるようにする
- マニュアルや手順書を活用して現場への周知を徹底する
ワーキンググループがうまく機能すれば、現場の課題に寄り添いながら、ICT化の効果を最大限に引き出すことができます。ただし、組織や施設の状況によっては、別のアプローチが必要な場合もあります。そのため、自分たちの現場に合った形で柔軟に取り組むことが大切です。
今回の内容が、皆さまのICT化を進める際の参考になれば幸いです。何かお困りのことや具体的なご相談があれば、ぜひお問い合わせください。一緒により良いICTの活用を模索していきましょう!