こんにちは、保育ICT推進協会の三好です。
政府は令和6年7月3日に行われた「こども政策DX推進チーム(第2回)」の中で、保育のICT化を2025年度中に100%を目指すと発表しました。
政府が具体的な導入目標を示すのは初めてで、さらに2025年度中(この記事作成時:2024年8月)という極めて短期間での達成を目指している点に注目が集まっています。
なぜ、ICT化を100%にする必要があるのか、なぜ2025年度中に実施するのか、その背景にある「監査」と「給付」の未来像を、この記事でわかりやすく解説します。
※この記事の内容は、執筆時点(2024年10月現在)の情報を基にしています。
YouTubeでも解説していますので、合わせてご覧ください。
2025年度までに100%の背景と実態
政府は現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用し、より良い社会を作るための様々な政策に取り組んでいます。その中でも、子育て関連のDXは特に重要視されており、保育園のICT化もその一環として、政府全体の取り組みの中で2025年度中に100%の達成を目指すことが示されました。
保育のICT化が、保育施設を管轄しているこども家庭庁だけでなく、国全体の取り組みとして進んでいくことを意味しています。
さらに、保育のICT化が保育という枠にとどまらず、母子手帳のデジタル化や児童相談所の相談をAIになど、「こども・子育て」という分野で、子どもを取り巻く環境をデジタルで変えていきましょうという取り組みの中の一つとしてすすんでいきます。
アプリやシステムは民間事業者が作成
これまで、こうしたデジタル化の政策を進めていく際、政府が全てのシステムを作成するのが一般的でしたが、今後は国がシステム構築やデータの標準化など、システムの裏側の見えない部分を担当し、実際に保育施設の職員や保護者が使用するシステムやアプリなどの操作画面(インターフェース)はシステム会社などの民間事業者が作成していく方針となります。
この変更により、システムの裏側は国がしっかりとした基盤を構築し、安定した運用を確保しつつ、システム会社が親しみやすいデザインや使いやすい操作画面で創意工夫を凝らすことで、利用者にとって使いやすいものを目指しています。
保育ICT100%は何を意味するのか
これまで保育のICT化は、厚労省時代に始まった「保育ICT補助金」(保育園のICT化にかかる経費の100万円分補助)が大きなきっかけとなり進んできました。
この補助金の目的は、保育現場の職員の負担軽減であり、国からのメッセージは「保育現場の業務負担をICT化で軽減してくださいね」というものでした。
当初、この取り組みは「ICT化したい保育園はICT化してもいいですよ」という選択肢を提供する形で、具体的な目標設定は公表されていませんでした。
しかし、ここにきて2025年度中に100%を目指すと発表されたことにより、状況が大きく変わっています。つまり、これは保育園がICT化を前提とする制度へと移行することを意味しています。
2025年度中に100%は実現可能なのか
私達保育ICT推進協会が実施し2023年に発表した調査では、効率保育現場のICT化率は約36%という結果でした。
2024年現在、保育現場のICT化率は4割から5割程度と言われています。これを2025年度中に100%にすることは、現実的に非常に困難であり、実現は難しいと考えられます。
しかし、政府としては2025年度中に100%を目指し、それを実現するために様々な政策を進めています。この目標を達成するためには、2025年度以降も早急に取り組みを継続していく必要があると考えられます。
なぜ政府が2025年度中に100%を目指すのか、その背景には「監査」や「給付」、「保活」といったキーワードが関わっています。この記事では、「監査」や「給付」に関するDXの未来像について詳しく解説していきます。
保育DXの目指す姿
現状の課題
保育現場における監査とDXは、主に保育施設の職員と自治体職員を対象としています。
現状、監査のために保育施設の職員は請求や書類作成に大きな負担を強いられています。
作成すべき書類の量が多く、自治体ごとに異なる書類様式が煩雑さを引き起こしています。また、市区町村と都道府県で項目が重複することがあります。
自治体職員側も、提出された書類の審査やシステムへの入力業務に大きな負担を感じています。
保育施設からの書類チェックや、保育施設との連絡・問い合わせへの対応も必要です。
このように、書類を作成する保育施設と受け取る自治体の双方に大きな負担があるという現状があります。
保活に関しても、子育て世帯の負担は大きく、園見学のための情報収集や見学予約を子育てで忙しい合間に行わなければならず、手間と時間がかかります。
また、入所手続きも自治体窓口で子どもを連れて手書きで申請書を記入する必要があり、さらに負担が増します。
一方で、保育施設側にとっても、予約の受付や調整、連絡などの業務負担が重くなっています。
DXによって変わる監査と給付
DXを実現することでこれらの課題を解決できますが、ポイントとなるのが「データ連携」です。
データ連携により、アナログでの書類作成が不要になります。
例えば、保育ICTシステムに入力されている園児一人ひとりの年齢や、登園・降園時間の情報を自治体職員が直接確認することで、申請なしで給付や監査を行うことができます。
保育施設が持つデータをそのまま自治体職員が確認できれば、申請や一部の監査が不要になります。
このように、保育施設と自治体のデータを連携するために新たに「施設管理プラットフォーム(PF)」というシステムが令和7年度に国によって構築されます。
保育施設はICT化を進め、園児情報や登降園情報、職員の情報などを入力しておくことで、施設管理プラットフォームとICTシステムが連携し、給付や監査が行われる未来を目指しています。
施設管理プラットフォームのイメージについては動画内で解説をしています。
DXによって変わる保活
監査や給付と並行して、保活も変わります。
これからは、保護者が園見学のための情報収集から入所申請までをスマホで一括して行えるようになります。
そのため、国が主導し、R7年度に「保活情報連携基盤」というシステムが整備される予定です。
この保活情報連携基盤には「施設情報管理」「見学予約情報管理」「手続情報管理」といった機能が備わっており、保護者は民間の保活スマホアプリを通じて保活情報連携基盤にアクセスし、各種手続きを行えるようになります。
保育施設側も、保育ICTシステムを通じて保活情報連携基盤にアクセスし、予約管理などの業務を効率化できるようになる予定です。
保活情報連携基盤の詳細については、YouTubeで詳しく解説しています。
R8年度にDXによる給付・監査が開始予定
このような給付や監査、保活のDXがR7年度後半には開始することを国は目指しています。
そのため、R7年度中(2025年度中)の保育ICT化100%を目指すということが名言されているわけです。
この監査と給付のDXを全国で一斉に開始する前に、一部の意欲ある自治体と協力して先行的な取り組みが実施されています。
それが、「デジタル田園都市国家構想交付金TYPES」いというもので、まずは一部の自治体で実施し、それを踏まえて全国展開をすすめていくという流れになっています。
保育現場では何が起こるのか
これまでは、保育のICT化は「ICT化したい保育園はどうぞ」というスタンスで補助金などで推進されてきましたが、これを「ICT化前提の制度」に変更することは大きな変革です。
今後は、保育をICT化することによるメリットがあるだけでなく、ICT化しないことが逆に不便になったり、業務負担が増える可能性も十分に考えられます。
保育DXが現場でどのように活用されるかはまだ不明ですが、例えば、保育のICTシステムを導入している場合、登降園情報が自動でデータ連携される一方で、ICT化していない施設では登降園データを手動で施設管理プラットフォームに入力する必要が出てくるかもしれません。
さらにICT化を進めている園でも、活用度合いを高める必要がある施設も出てくるかもしれません。
例えば、登降園打刻は行っているものの、手書きの出席簿も並行して作成しているため、登降園打刻データに抜けがあったり正確性に欠けるような園は、データ連携のために登降園データを正確に管理し、その活用方法の見直しが必要になるでしょう。
まとめ
このように、保育のDXは非常にスピーディーに進んでおり、保育施設の運営においても大きな変革が求められています。
ICTを活用した運営体制になるため、特に未導入の施設においては、ICT化のメリットだけでなく、導入しないことによる影響についても十分に考慮し、対応を検討する必要があります。
保育ICT推進協会では、保育現場に最適なICT化を実現するための支援を行っています。
これからICT化を進めたい、活用を促進したい、またはシステムの乗り換えを検討されている施設など、ICTに関することは当協会までお気軽にご相談ください。
また、自治体単位での導入支援事業もご提案いたします。お問い合わせください。