【宗像市】保育ICTラボ事業における取組② ICT活用を自治体から推進|導入から“活用”へ前進させる支援のあり方

福岡県宗像市では、ICT「導入後」に生じる活用の質向上・園内定着・共通理解の醸成を進めることを目的に、「保育ICTラボ事業」に取り組んでいます。

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本記事では、今年度の取組とその成果、見学会や成果報告会で共有された現場のリアルな変化についてレポートします。

(1)今年度の取組

モデル園に「端末整備」と、宗像市内全園に「ICT活用体制の強化」を両輪とした取組を進めました。

①端末環境の整備(市独自補助×伴走支援)

  • 端末購入補助の実施(市独自の端末購入補助)
    モデル園に対して老朽化した端末の入れ替えや不足分の購入補助を実施。ハード面で支援。
  • 端末選定・運用ルールのアドバイス(伴走支援)
    • 端末取り扱いルールの整備
    • ファイル管理方法
    • トラブル対応

単に端末整備に終始しないよう、ICTの効果を最大化するために、当協会が伴走支援を実施しました。

②活用体制の強化(研修・ワーキンググループ・伴走支援)

市内全園で共通している「業務の棚卸や優先順位付けができない」という課題に対して、全体研修・ワーキンググループ・伴走支援を組み合わせて実施。

  • 課題を言語化
  • 優先順位を整理
  • 自園に合った活用を設計

を当協会からの助言を交えながら繰り返し行うことで、業務改善を進めていく自走力の育成につなげました。

(2)成果

事業終了後のモデル園への調査では、ICT導入前後で以下のような変化が見られ、ICT活用の効果が顕著にみられました。

① 残業時間の削減

  • 導入前:90.0分/日
  • 導入後:55.7分/日
     約4割削減(−34.3分)

② ノンコンタクトタイムの確保

  • 導入前:7.5分
  • 導入後:33.8分
     約4倍に増加(+26.3分)

③ 業務の中身そのものが変化

単なる効率化にとどまらず、時間の使い方が変わったことが見て取れました。

  • 記録業務:30% → 20%(−10pt)
  • 情報共有:20% → 26.2%(+6.2pt)
  • 保護者対応:20% → 25%(+5pt)

記録業務の削減によって生まれた時間を職員間の情報共有や保護者とのコミュニケーションに充てられるようになっています。

このように、ICT導入により、業務効率化が進んだ結果、残業時間の削減やノンコンタクトタイムの確保に加え、休憩時間の確保といった働き方全体の改善も見られました。

(3)モデル園で起きた現場の変化

事業終盤では、見学会と成果報告を実施しました。

見学会はモデル園のかとう保育園にて開催し、51名の保育施設関係者が市内外から参加しました。かとう保育園のICT取組内容や実際の活用状況を共有しました。

成果報告会はモデル園のかとう保育園、西海保育園両園と、当協会代表理事の三好とのトークセッション形式で実施しました。宗像市内保育所や認定こども園、また近隣自治体が参加し、モデル園で起きた具体的な変化について共有されました。

見学会や成果報告会で報告された、「現場で何が変わったのか」について紹介します。

端末整備により「その場で終わる仕事」へ

  • 端末の空き待ちが解消
  • 記録や事務作業がその場で完結

 これまで発生していた 「後でまとめてやる業務」が減少。業務の分断がなくなり、日中に仕事が完結する状態へと変化しました。

ルール整備により「迷わず使える」環境へ

  • 端末取り扱いルール
  • ファイル保存方法

を園内で統一することが重要と認識するように。「人によって使い方が違う」状態から脱却し、 誰でも同じように使える環境が整備されました。

●業務の棚卸により「個人任せ」から「チーム運用」へ

  • 課題を言語化
  • 優先順位を整理
  • 役割分担を明確化

トップダウンで進めるのではなく、周囲の意見に耳を傾け、相談しながら共に歩む体制がより強化されました。ICT活用が個人のスキルに依存するものから、組織として進めるものへと変化しました。

●ICT活用の進化により「時間の使い方」が変化

  • 情報共有ツールの導入
  • ボイスメモ・AI活用による書類作成の効率化

を実施。 その結果、

  • ノンコンタクトタイムの確保
  • ドキュメンテーションの質向上
  • 保護者とのコミュニケーション強化

など、 保育の質に直結する時間へ再配分が進みました。

(4)他園への横展開:現場から見えた実践のポイント

成果報告会では、ワーキンググループ参加施設から今年度の振り返りが共有されました。特に印象的だったのは、ICT活用は「仕組み」だけでなく「運用の工夫」で進むという点です。

●ITが苦手な職員がおり、活用が進まない

  • 得意な職員が教える
  • 教わった職員が別の職員に教える

教え合う文化をつくることで、活用が広がる。また、若手がベテランに教えるなど、 職員間の新たな関係性の構築にもつながりました。

●ノンコンタクトタイムの時間が取れない

  • 休憩時間・場所の確保
  • 個人任せにしない運用

→ 園全体で設計することが重要。さらに、一部クラスから試験的に導入するなど、 スモールスタートが有効であることも共有されました。

(5)イベントを通じた波及効果

見学会アンケートからは、モデル園での取組が、市内保育施設へ広がる兆しが見られました。

  • 不安が解消されて、具体的に考えられるようになった
  • 自園も活用している方だと思うが、真似したい所や取り入れたいところがあった

といった理由が聞かれました。

【当協会代表理事 三好より】

宗像市は、市内の保育施設でICT導入率100%を達成している先進的な自治体ですが、今回の取組を通して改めて感じたのは、導入そのものではなく、その先の「どう活かすか」が重要だということです。見学会においては、ドキュメンテーションの工夫や端末管理ルールの整備、職員間の情報共有の見直しなど、日々の実践に根ざした具体的な取組を参加者に見ていただくことができました。この内容が、他園にとって自園の活用を見直すきっかけとなり、ICTをよりよい保育と業務改善につなげていく一歩になればと思います。