
福岡県宗像市では、ICT「導入後」に生じる活用の質向上・園内定着・共通理解の醸成を進めることを目的に、「保育ICTラボ事業」に取り組んでいます。
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ここでは、これまで実施した施策の詳細と、取組参加者を対象にしたアンケート結果をご紹介します。
(1)初回研修
市内施設関係者を対象に、導入後の活用促進を見据え、ICT活用の目的や体制づくりについて共通理解を深めることを目的に実施しました。
参加者数: 46名(自治体職員 2名含む)
研修では、
- 保育ICT化の意義や目標設定の重要性
- チームで進める推進体制
などを中心に解説しました。
研修後アンケートでは、全ての参加者が「研修を受けて、ICT活用の必要性を改めて感じた」と回答しました。
一方で、
「職員との共有・持続力が進めていく中でつまずくかもしれないという不安」
「得意、不得意の差などで、業務負担の差が出そう」
といった声も聞かれ、保育ICTの導入・活用に対しては依然不安や戸惑いを感じていることが明らかとなり、支援の中でこれらの不安を解消することが求められました。
(2)ワーキンググループ・巡回支援
① ワーキンググループ(グループ研修)

これまで全2回のワーキンググループを実施しました。
第1回では、保護者連絡、書類業務の見直し、職員間のITリテラシー差への対応など、活用に向けて多くの園で課題となるテーマについて情報提供を行いました。他園との意見交換が活発に行われ、実践に向けた前向きな姿勢が多くみられ、「ぜひ取り組んでみたい」という声が多く上がりました。
第2回では、第1回以降の実践の振り返りと、今後に向けた方向性について検討しました。
他園との対話を通じて、自園では気づけなかった視点・工夫を得るとともに、実践の中で見えた課題の本質を言語化し、次につながる行動の方向性を明確化しました。
施設間で互いに学び合いながら、ICT活用の質的向上を図る機会となりました。
▼グループ研修で議論されたポイント(抜粋)
- 紙とICTの役割分担連絡帳・おたより・お知らせ等を、どの範囲までICT化するか/紙と併用する移行期間をどう設計するか
- 職員間のITリテラシー差への向き合い方
得意な職員に業務が偏りすぎない工夫、園内研修やマニュアル整備の必要性
- ドキュメンテーションと保育のバランス
「写真を撮るための保育」にならないようにする工夫、写真枚数や作成時間の目安、園内掲示や保護者との対話への活かし方
- 端末整備と運用ルール
タブレット増設による「1人1台」運用のイメージ、持ち出し・充電・アップデート・容量整理などの基本ルールづくり
- 園内コミュニケーションツールの使い分け
ツールの使い分け、休日・勤務時間外の連絡ルール(発信は自由・返信は勤務時間内など)の検討
- 行政・システム会社・園それぞれの役割
監査や報告におけるICT活用のイメージ、困ったときの相談先
② 巡回支援
モデル園:かとう保育園、西海保育園


市内2園をモデル園として選定し、各施設の課題解決をハードとソフトの両面から支援しています。
ハード面では、ヒアリングをもとに園に必要な機材や活用方法、管理方法について助言。ソフト面では、課題を整理し、より現場目線に立った実践的な情報提供を行います。
設備増強の効果を最大限に引き出すことを目指し、業務の再構築やICT環境の強化など、施設の状況に応じた伴走支援を実施しています。
(3)保育ICT検定(中級・上級)の無償提供
実施期間:2025/7/18~2025/12/31

保育ICTに関する体系的な知識を習得し、ICT化・業務効率化を推進できる人材を育成するため、市内の自治体職員および保育施設関係者を対象に「保育ICT検定(中級・上級)」を無償で提供しています。
<保育ICT検定とは>
一般社団法人 保育ICT推進協会が提供するオンライン資格制度で、初級・中級・上級の3段階で構成されています。ICTの基礎知識から、セキュリティ・リスク管理・保育DX推進までを体系的に学ぶことができ、積極的に活用ができる人材の育成を目指しています。
■中間アンケートから見る支援の効果について■
ここまでの取組の振り返りとして中間アンケートを実施しました。現場職員がどのような変化を感じているのか、実感の声をもとにご紹介します。
ICTや業務改善の必要性を実感
「当協会による支援を通じて、ICTや業務改善の必要性を実感できましたか?」という質問に対し、 93.3%が「そう思う」「非常にそう思う」と回答しました。支援を通じてICT活用の目的や意義がより具体的に理解され、現場での共通認識が形成されつつあることがうかがえます。
支援内容の納得感・実践につながる構成
「支援内容は現実的で納得でき、『やってみよう』と感じられるものでしたか?」という質問には、93.3%が肯定的に回答。伴走支援やワークの内容が、各園の実情に寄り添った実践的なものであったことが評価されています。
“自分たちで進める”雰囲気の醸成
「支援を通じて、“自分たちで改善していこう”という雰囲気が生まれましたか?」には、86.7%が「そう思う」「非常にそう思う」と回答。外部支援に依存するのではなく、園内で主体的に取り組む機運が高まっていることがわかります。
行動変容の広がり
「実際に業務の見直しやICT活用に向けたアクションが生まれましたか?」という問いには、73.3%が「はい」と回答。具体的には、「毎月開催する副主任会において、ICT推進について毎回議題に入れ話し合うようになりました。」といった声も聞かれ、支援が単なる理解の深化にとどまらず、具体的な行動の変化につながっている様子がわかりました。
他園との情報共有で進む機運醸成
また、アンケートの自由記述では
「他園のICT化がどれくらい進んでいるのかがわかり、同じ悩みを共有できるなど、とても参考になった。」
「他園の情報を聞くことが勉強になった。」
といった声が大変多く聞かれました。園同士の情報共有が進んだことで、自園だけでは気づきにくい課題や工夫が共有され、市内全体で“学び合う文化”が生まれ始めていることが伺えました。
引き続き、更なるICT活用に向けて支援を続けて参ります。
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【後編(後日公開予定)】
