
保育ICT推進協会は、保育ICTラボ事業において、自治体と園が自ら業務改善を進めるための人材と仕組みを育てています。今回は宗像市、野ばら第二保育園への巡回支援を行い、翌日には市内の参加施設を対象とした第1回往還型研修を実施しました。
この2日間で私たちが大切にしたのは、最初から「正解」を示すことではなく、現場で実際に起きていることを一緒に確かめることでした。帳票を前にして初めて見える重なりや、参加者同士で話すうちに言葉になる負担感があります。そこから、各園が次回までに動かせる一歩を探しました。
第1回は、一つの園の仕事を具体的に見るところから

野ばら第二保育園では、年間・期間の計画、個人記録、経過記録、ICTシステムの発達記録など、実際に使っている帳票と画面を一つずつ確認しました。記録ごとに目的や頻度は異なりますが、同じ子どもの姿を複数の書類へ書く月もあり、作成する職員にも、確認する管理職にも負担が生じていました。
一方で、園が大切にしていたのは、子どもの姿と保育のつながりを丁寧に残すことです。記録を減らしたいからといって、その中身まで薄くしたいわけではありません。この両方をどう実現するかが、最初の対話の中心になりました。
そこで、各記録の目的、頻度、書く人、確認する人、保存先を整理し、どこに重なりがあるのかを確かめる進め方を共有しました。記録を減らす目的は、内容を薄くすることではありません。子どもの姿を捉え、次の保育につなげるための対話と記録へ時間を振り向けることです。
「書いた後に直す」だけでなく、書く前に対話する
訪問では、記録そのものだけでなく、記録ができるまでの流れにも目を向けました。職員が書いた後に管理職が添削するだけでは、書き手が何を見て、どう考えたのかを十分に共有できないまま、修正の往復が増えることがあります。
そこで私たちから、書く前に子どもの姿について短く話す方法を紹介しました。担当職員が見たことを話し、聞き手が問い返したり、気づきを受け止めたりした後で、担当職員が自分の言葉で記録する進め方です。記録作成の負担を減らすだけでなく、職員自身が保育を振り返り、言葉にする力を育てることにもつながります。
ただし、これは訪問時に紹介した選択肢で、導入が決まったものではありません。実際に試すには、誰と誰が話すのか、その間の保育を誰が担うのか、短い対話の時間を勤務の中でどう確保するのかまで考える必要があります。方法だけを持ち帰るのではなく、園で続けられる条件も一緒に整理していきます。
往還型研修では、困りごとを「自分たちで動かせる部分」へ

翌日の第1回往還型研修では、参加者がまず、自園の業務で負担に感じる場面と、その背景を個人で書き出しました。その後のグループ対話では、紙とICTの二重管理、端末の管理、保護者連絡、生成AIの利用ルール、ICTに詳しい職員への負担集中など、施設は違っても重なる悩みが次々に挙がりました。
「人手が足りない」「職員の意識がそろわない」「システムの機能が足りない」といった背景は、どれも現場にある切実な事情です。ただ、そこだけで考え続けると、次の行動を決めにくくなります。そこで、手順、入力項目、役割、時間など、自分たちで調整できる部分まで課題を小さくしていきました。
対話では、参加者が交代で進行役も担いました。全員が話せるように問いかけ、話が広がったときには目的へ戻し、他園の工夫をそのまま正解にせず、自園ならどうするかを考えます。話していくうちに、漠然としていた困りごとが、「誰と相談するか」「どの項目を見直すか」「どの機能を一度試すか」という具体的な動きへ変わっていきました。
参加者は、目指す状態と取り組みテーマを決め、次回までに何を試すかをそれぞれのワークシートに記しました。一度で完成させる計画ではなく、まず動いてみて、分かったことを次回へ持ち寄るための計画です。
一人に背負わせないことが、共通の土台に
個別の巡回支援と往還型研修を続けて行ったことで、園ごとに課題の表れ方は違っても、改善を特定の得意な職員一人へ任せないことが共通の土台になると、改めて確認できました。ICTの操作に詳しい人がいても、その人だけでは帳票を変える判断や、園全体の役割分担までは決められません。担当者が不在になると運用や判断が止まるおそれもあります。
現場の職員と意思決定できる人を含むチームをつくり、話し合う時間を予定へ先に組み込むことが、改善を続けるための土台になります。巡回支援では一つの園の仕事を細部まで見て、往還型研修では施設を越えて共通点と違いを持ち寄る。この二つを行き来することで、一般的なICT活用の話を、それぞれの園で実行できる形へ落とし込んでいきます。
次回は、「成功か失敗か」ではなく「取り組みの過程」を見ていく
次回の往還型研修では、各施設が試したことだけでなく、進んだこと、進まなかったこと、その理由も持ち寄ります。予定どおりできなかった場合も、どこで止まり、誰との相談やどの判断が必要だったのかが分かれば、次の改善材料になります。
野ばら第二保育園でも、今回検討したテーマの中から何を小さく試せるかを園内で整理し、次の巡回支援で振り返ります。見た目に大きな変化が出る前にも、現場では迷いや調整が重なります。この連載では、完成した成果だけをまとめるのではなく、活動の節目ごとに、その時点で見えたことと次に試すことをお伝えします。
当協会の保育ICTラボ事業は、宗像市と参加施設の皆さまと試行錯誤を重ねながら、園内で業務改善を続ける人材と仕組みづくりを支援していきます。
支援者
三好 冬馬
一般社団法人 保育ICT推進協会 代表理事
保育所で保育士として勤務しながら、地域の保育施設におけるICT導入と活用に携わってきました。保育現場での実体験をもとに、園や自治体の業務改善、ICT活用、人材育成を支援しています。
保育ICT人材育成・業務改善支援に関するお問い合わせ
保育ICT推進協会では、自治体と保育施設が連携し、地域全体でICT活用と業務改善を進めるための支援を行っています。
管内施設を対象とした往還型研修、専門家による巡回支援を企画したい自治体の方もご相談ください。地域の課題や既存の取り組みを伺いながら、保育ICT人材の育成、園内の推進体制づくり、具体的な施策をどのように組み合わせるか、一緒考えます。
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