保育DX

保育記録をAIで作成する時代だからこそ考えたいこと

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テクノロジーの急速な進化に伴い、保育現場にもAI(人工知能)の波が押し寄せています。これまで専門知識が必要だったホームページ作成やプログラミングなどがAIで手軽に行えるようになったのと同様に、保育の現場でも文章作成や文字起こし、指導計画の作成支援などにAIが活用され始めています。

特に、保育士の大きな負担となっている「保育記録」の作成業務は、文章生成を得意とするAIと非常に相性が良いとされています。しかし、「AIを使えば綺麗な文章がすぐに出来上がるから便利」と手放しで喜んで良いのでしょうか。

今回は、保育現場でのAI活用における限界と本質、そして守るべき専門性について考えてみましょう。

AIが作る綺麗な文章の限界と「現場で使えるか」の重要性

AIはなぜ、自然で整った文章を瞬時に作成できるのでしょうか。それは、Web上にある膨大な文章データを学習し、「この文脈にはこの言葉を繋げるのが最も確率が高く適切だろう」とテキストを生成しているからです。

つまり、AIが作成する文章はあくまで「平均的な正解」であり、それぞれの保育現場における「理想や最適」であるとは限りません。

ここで思い起こしたいのが、保育園にICTシステムを導入したときのことです。いくら多くの機能があり、見た目が綺麗なシステムであっても、現場の職員が使いこなせなければ意味がありませんでした。AIの活用も全く同じです。大切なのはAIの出力する文章の完成度ではなく、「現場でどう機能し、運用できるか」という点です。

例えば、AIを使って園の見学予約ページを簡単に作成したとします。見た目がどれほど整っていても、保護者が入力しづらかったり、職員の確認作業が増えてしまっては本末転倒です。極論を言えば、業務がスムーズに回り、保護者も迷わず予約できているのであれば、デザインはシンプルでも構わないわけです。

このように、理想的な環境を作るためには、AI任せにするのではなく、どう活用するのかと人間が全体のプロセスを設計する力が極めて重要になります。

保育記録は単なる文章作成業務ではない

保育記録のAI化を考える上で最も注意しなければならないのは、「記録を書く本質的な意味」を見失わないことです。

保育記録は、単に「書類を完成させて提出する」ための事務作業ではありません。

  • 子どもの姿を注意深く観察する
  • その行動や発言にある意味を考察する
  • 次の保育の関わり方や指導計画に活かす

この一連の思考プロセスや振り返りそのものが、保育記録の本質です。また、記録は職員間で子どもへの理解を共有し、より良い保育について対話するための共通の土台でもあります。個人の気づきを園全体の知見として蓄積し、組織として保育の質を高めていくための基盤なのです。

AIの自動化が招く「保育の空洞化」のリスク

現在、カメラや音声認識技術、AIを組み合わせることで、保育士が一切手を下さなくても「誰が、どこで、どんな遊びをしていたか」を認識し、発達段階に合わせた記録を自動で生成する技術が実現可能になっています。

しかし、記録を書くという「振り返りのプロセス」を全てAIに委ねてしまったらどうなるでしょうか。

手書きや手入力の手間はなくなりますが、同時に保育者が「子どもについて深く考える時間」もごっそり失われてしまう危険性があります。記録は綺麗に整っているのに、保育者自身の子ども理解が深まらず、職員同士の対話も減ってしまう。これこそが、AI導入によって懸念される「保育の空洞化」です。

私たちが削減すべきなのは「文字をきれいに整えて書く(入力する)物理的な負担」であり、その背景にある「振り返りや意味づけという保育の専門性」はしっかりと維持し、むしろ充実させていかなければなりません。

失敗の影響が少ない「質から距離のある業務」からAIを始める

一方で、「AIは危険だから一切使わない」と遠ざけることもまたリスクです。

今後、園の意思に関わらず、システムやツールのなかに自然とAI機能が組み込まれていくことは確実です。だからこそ、トレンドをすべて追いかける必要はありませんが、「やんわりとAIでできることを理解しておく」という適切な距離感での付き合い方が求められます。

AIを導入する際は、いきなり保育の本丸である「指導計画や記録」に導入するのではなく、保育の質に直接影響しにくく、個人情報を含まない業務から活用してみることをお勧めします。

おすすめのファーストステップ

  • お便りや配布物の校正: 作成した文章の誤字脱字チェックや、より分かりやすい表現への推敲をAIに依頼する。
  • 外部宛てメールの下書き作成: 日常的な問い合わせ返信や定型的な案内メールの文面を作成してもらう。
  • ネット検索の代わりの調べ物: 新しい遊びのアイデア出しや、専門用語の意味などを調べる辞書代わりに使う。
  • 外国語の翻訳: 多言語での案内が必要な際の下訳として活用する。
  • 膨大な資料の要約: 自治体や国から提示される長大な資料を、ポイントを絞って要約してもらう。

これらは、万が一AIが間違った回答(ハルシネーション)を出力したとしても、人間がすぐに判断・修正でき、子どもや保護者との信頼関係に重大な悪影響を及ぼしにくい業務です。こうした領域でまずはAIの便利さを実感し、操作に慣れていくことが大切です。

AIをどうするかではなく、園としてどういう保育・職場を実現したいかを考える

AIの導入をめぐる議論では、よく「AIは導入すべきか否か」「AIにどこまで作成させるべきか」といった「AI側(AI起点)」の話ばかりが注目されがちです。しかし、そこからスタートしてしまうのは本末転倒です。

「AIは危険だから一切遠ざける」というのも、「AIが便利だから全てを自動化する」というのも、どちらもAIに振り回されているという点では同じであり、極端な考え方だと言えます。

本当に重要なのは、「自分たちの園として、どういった保育を行いたいか」「職員にとってどういう職場(働きやすさ、やりがい、対話のある環境)を実現したいか」という、人間側(園・職場起点)のビジョンをまず確立することです。

園として目指す保育と職場のあり方が明確にあって初めて、そのビジョンを達成するための手段として「AIをどう位置づけるか」を主体的に判断できるようになります。

AIやICTの導入によって業務負担が減り、時間に余裕ができたからといって、自動的に保育の質が上がったり、職場環境が良くなったりするわけではありません。ぼんやりと時間ができるだけでは、かえって保育の質が下がってしまうケースもあります。

「浮いた時間を、子どもと向き合う時間にどう充てるのか」「職員同士の学びや対話の時間にどう活用するのか」を、園全体でしっかりと設計し、仕組化していくこと。それこそが、AIに保育を空洞化させることなく、時間と保育の専門性を取り戻すための鍵となります。

AIを主役にするのではなく、保育者がより豊かな時間を子どもたちと過ごし、職員が生き生きと働ける職場を作るための強力な「サポーター」として、主体的に付き合っていきましょう。

保育ICT推進協会のサポートについて

一般社団法人保育ICT推進協会では、保育現場の負担軽減と質向上の両立を目指し、ICTやAIツールの効果的な活用をサポートしています。

現場のITスキル向上を体系的に目指す保育ICTリテラシー検定(中級)の提供や、職員が孤立せず業務改善を進めるためのセミナー・研修・養成校講義を実施しています。また、園のビジョンに沿って無理なくデジタルツールを定着させるICT導入・活用支援(施設向け伴走支援)も行っております。

研修・検定・巡回支援など、ご関心のある方はぜひお問い合わせください。 一般社団法人保育ICT推進協会HP